この対談は妙壽寺本堂落慶30周年記念インタビューとして同寺の広報誌「寺楽寿(てらす)」16号、17号に掲載されたものです。

転載許可を頂きました。話の展開により一部見出しと構成を変更しておりますが全文掲載させていただきました。

なお対談相手は三吉廣明氏(妙壽寺住職)です。


泊 懋氏(元東映アニメーション会長)が語る映画の時代とテレビの時代

【パート4】 時代劇の魅力

 

三吉 時代劇で一つお伺いしたいのは、時代考証問うのがございますね。

 

泊 時代考証は私は稲垣史生さん(日本の時代考証家)によく相談しました。吉宗はどうすれば城を抜け出せるか。それは不浄門からならできるでしょう、とか。家光で道中記を作りたいけど大丈夫か。あ、それならこの時期に京都に行ったことがあるから大丈夫です、とかですね。面白くするためにどこまで嘘をついていいか(笑)相談しました。それに京都は素晴らしい職人さんが居ましたから、衣裳、小道具、セットすべて安心していました。

 

三吉 やはり何を目指すかということが大切で、最後には良いところに辿り着く野だと思います。そこの中での時代考証とは、と思いますが。

 

泊 そうですね。それは市川右太衛門さんにいろいろなリアルになんとかしろと・・・

 

三吉 それは無理ですよね(笑)

 

泊 それでずっと受けてきている方ですからね。

 

三吉 私はチャンバラという言葉が好きなんです。例えば、私の母堂は市川右太衛門が好きですし、私は個人的には「忠臣蔵」が好きで、随分いろいろな「忠臣蔵」をみていますが、「忠臣蔵」のどれが好きかというと、片岡千恵蔵が大石で、大川橋蔵が

浅野内匠頭でという、東映時代劇の全盛の時の豪華絢爛。

 

泊 市川右太衛門の橘左近

 

三吉 要するに、吉良上野介の月形龍之介が、後に水戸黄門になるくせに吉良上野介というところがうんとよくて、あの本当に憎々しい感じ。

 

泊 史上最高の上野介でした。

 

三吉 そして大川橋蔵がいじめられる感じがとてもよくって、最後に切腹する時に近習が渡り廊下のところで最後に会うじゃないですか。涙、涙ですね。

 

泊 江戸時代から練りに練られた物語ですものね。

 

三吉 そうですよね。あれは日本人の心の中に忠と孝というのは「忠ならんと欲すれば孝ならず」じゃやないけども、忠と孝が大事で、あの近習の侍が礼服が烏帽子大紋のところ、長裃を着て大恥をかきそうになる意地悪をされて、ところが、もう一着ちゃんと用意されているんですね。あれは本当にいいなと・・・

 

泊 いやいや凄い。ご住職の知識に圧倒されます。

 

三吉 これまた泊さんの資料によりますと、時代考証のいわゆるリアルとフィクション、ノンフィクションというお話にもなってくるのかもしれませんが、「暴れん坊将軍」の企画に東映の上層部からクレームがついたとのことですね。「将軍が城を出て、市中で立ち回りをやるのは乱暴ではないか」と言われた時に、「いや、28年の治世の間に26回、つまり年に1回、将軍様がお忍びで出てもそれはあり得ることです」とご説得をされたと言うのが、すばらしいなと思いました。

 

泊 苦し紛れでしたが、ここを突破しないと成立しませんので。テレビ朝日の局長も粋な人で「ああ、そうかそうか、28年のうちに26回だけ出たんだな」って、笑ってハンコを押してくれて。そのお陰で27年、831回も続きました。初演は松平健24歳でした。

 

三吉 24歳ですか。でもよく発掘されましたね。勝新さんのところにおられたということですが。

 

泊 事情があって前の番組が打ち切りになったものですから急遽温存していた吉宗を用意したんですが、主役級の役者は出払って残ってない。その時、勝新太郎さんの弟子に松平健というのがいるというのを小耳にはさんで面接したのですが、皆が感じが暗くてよくないと言う。見ると松平健は黒シャツに黒のズボンの黒装束で緊張して立っている。そこで2回目の面接の時は事務所に白い服を着てくるように頼みましてね。(笑)松平健は白装束でにこやかに現れたんですね。笑顔の素敵な若者でした。新人主役決定の裏話です。

新人だからタイトルも「暴れん坊」にしましたが、松平健が貫禄がつき始めると題名を変えようという話がでましたね。変えなくて良かった。

 

三吉 でも格いいですよ。やっぱり海に白い馬で走ってくるというのは、最初からそうだったのですか・

 

泊 タイトルバックに白馬が登場するのは5年後で、はじめは茶色の鹿毛でした。新人で勝負でしたから脇を固めようと、北島三郎、横内正、天知茂といった方々に出ていただきました。北島さんがカギだと思ったから新宿コマの楽屋に訪ねたんですが、スケジュールは2年先までびっしりなんですよ。でも北島さんは「兄弟仁義」で京都に思い入れがあるもんでうすからやりくりして出てくださいました。

 

泊 これは後日談ですが、北島さんが皇太子(現在の天皇陛下)と美智子妃殿下の前で歌うことになって、ここからは北島さんの話ですが、宮内庁からは歌うだけで直接話しかけてはいけないと厳命されていたけど、北島さんは「殿下リクエストは」と声をかけちゃうんです。すると殿下は「あの、ぐっと!というのを」とおっしゃった。「ぐっと」というのは「暴れん坊将軍」で北島さんが歌う主題歌です。そして歌い終わったら美智子様が「番組をいつまでもお続けください」っておっしゃられたそうです。宮中では毎週土曜の8時にはテレビの前にお座りになって「暴れん坊将軍」を観ておられるだと、この話を聞いた時は北島さんと万歳しましたね。この番組は天皇家のご了承がなければ止められませんよと(笑)、テレビ朝日に新しい社長が就任するたびにこの話をしたものです。