Vol.2 エジプトの夏 

「アラブの春」という命名がどうもいけない。長期の独裁政権から解放されるという意味では確かに「春」かもしれないのだが、その後に独裁政権の打倒がイコール民主化であるような見方を単純に広め、さらに民主化はすなわち我々と同じ西側の近代国家社会の価値観を共有する世界であるという短絡的な期待を多くの人に抱かせているからだ。


 その誤解が端的に表れたのがエジプトだろう。長期独裁を続けたムバラク政権を打倒し、民主的手続きの下で選挙がおこなわれイスラム色の強いムルシ大統領が選ばれ、新生エジプトが船出した。だが今度はイスラム化に反対する世俗派がムルシ政権はイスラム独裁だとして反旗を翻す。結局先の独裁政権の後ろ盾であった軍の介入でムルシ氏を追放、軍の下での暫定政権が発足した。ムルシ体制反対派は軍の介入を歓迎しクーデターではないという。しかしムルシ氏支持派は選挙で民主的に選ばれた政権を軍が力ずくで追放したとして抗議の座り込みを続ける。

民主化というのは何をもっていうのだろうか。世の中すべて西欧近代思想をベースとする国家ばかりではないということは分かっていてもどうも「春」「民主化」というとすぐに西側諸国を思い浮かべる。それはイスラム世界では世俗化を期待するものだろうが、イスラム原理からは許せない世界である。共和制でイスラム色を払しょくしてきたトルコで90年あまり経っていままたイスラム化と世俗化のせめぎ合いが起こっていることをみると簡単に答えは出てきそうにない。


小西洋也(こにし・ひろや)

1947(昭和22)年生まれ。東京都出身。1966(昭和41)年、海城高校卒。

1970(昭和45)年上智大学卒、日経新聞記者。その後テレビ東京、BSジャパンで報道に携わる。

現在は自由業。海原会副会長、海原メディア会会長。