Vol.12  「パブリックビューイング」

 2週連続で日本列島を大型台風が直撃。特に台風19号は中央競馬が10月13日の月曜日(体育の日)にあったので、我々も心配しきり。結局、東京競馬は無事開催されたものの、京都競馬は14日の火曜日に代替開催(出馬表に変更なし)。バタバタしましたが、自然の猛威には逆らえません。

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 1週前、台風18号が首都圏を通過したのは10月6日(月)の午前。その半日前、5日の日曜深夜に東京都府中市で競馬ファン向けのイベントが行われました。

 

 東京競馬場で凱旋門賞パブリックビューイング。

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 大会場に多くの人を集めて、大型スクリーンなどでスポーツを観戦するイベント。街頭テレビで力道山戦のプロレス中継(古い!)は、その端緒でしょうか。近年では、やはりサッカー。今年はブラジルで4年に1度のFIFAワールドカップが開催されて、日本各地でパブリックビューイングが行われたのは記憶に新しいところ。残念ながら我が日本代表は予選リーグで敗退しましたが、まあまあ盛り上がったようです。

 

 凱旋門賞はフランスで行われる伝統の国際レースで、勝てば文句なしに世界的名馬の評価を得られます。今世紀に入って日本馬の活躍が目立つようになり、一昨年と昨年はオルフェーヴル(栗東・池江泰寿厩舎)が連続2着。今年は、ジャスタウェイとゴールドシップ(ともに牡5歳で栗東・須貝尚介厩舎)、ハープスター(3歳牝、栗東・松田博資厩舎)の3頭が出走。外国勢に傑出馬不在の前評判で、日本馬優勝の期待が高まりました。JRA(日本中央競馬会)はこの好機に反応して、東京、京都、新潟の3競馬場でパブリックビューイング。オルフェーヴルの時も2年連続で行われましたが(新宿、梅田の映画館)、さらに大会場を用意して“その時”に備えました。

 

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 とはいえ、競馬場でパブリックビューイング。冷静に考えてみると、サッカー観戦とは明らかに異質な点があります。まず、試合(レース)の時間の長さ。サッカーの1時間半以上に対して、競馬は1〜3分。2400mの凱旋門賞なら、だいたい2分半。他にレースの中継はなく、わずか150秒のために人を集めることになります。また、競馬といえば馬券ですが、パブリックビューイングは馬券を売らないイベントです。映画館ならともかく、競馬場で行うほど多くの人が足を運ぶのかどうか。レース自体を見るのに、わざわざ出かける必要はありません。フジテレビ系列とグリーンチャンネル(中央競馬の有料放送)で生中継。家でゆっくり楽しむことができるのですから。


 加えて、時間帯と場所、天候の問題もありました。凱旋門賞の発走は日付が変わる手前の午後11:30(日本時間)、しかも日曜夜。3競馬場とも都心の新宿や大阪の梅田のような繁華街ではなく、台風接近中で少なくない雨量。これだけ悪条件が重なって、さて行く人がどれぐらいいるのか。気になって取材してしまいました。


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 東京競馬場2323人、京都競馬場1252人、新潟競馬場1229人。いや〜、結構集まるものですね。私は東京競馬場で動き回っていましたが、降りしきる雨の中、続々と入場者が。熱心な人は、開場(20:00)から3時間以上も待っていました。繰り返しますが、翌日平日の日曜深夜です。ちょっと驚きました。


 馬券抜きでも、ちゃんと動員できる。競馬人気もそれなりでひと安心……とは思いませんでした。


 実は普段、競馬場は入場者減の傾向にあります。インターネット投票が発達して、レース中継はパソコンで見るのが当たり前の時代です。現場や場外馬券売り場からファンの皆様(特に若年層)の足が遠のくのは、むしろ自然の流れ。単に情報を集めて馬券を買うだけなら、私も競馬場の記者席より会社のデスクが便利と感じてしまうほどです。


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 では、なぜ雨中の夜に千人単位の人が集まったのか? 大レース、大イベントに関心が集中する傾向が反映されたものと感じています。現場離れが進む中、ダービーと有馬記念だけは別格。昨年は有馬記念当日(中山競馬場、入場12万4782人)、レース終了後のオルフェーヴルの引退式に何と6万人の熱心なファンが残りました。しかし、大レースのない土曜日の中山だと2万人は入りませんし、日曜日でも5万人は稀。平日に行われることが多い地方競馬も、入場者は減る一方です。長い時間じっくり競馬に取り組む人の比率は、馬券の売り上げ以上に減っています。

 

 短時間、短期間、一極集中。サッカーも、日本代表戦やワールドカップの関心度と比べてJリーグの人気が今ひとつと聞きます。プロ野球は平時にうまく人を集めている印象ですが、短期決戦のクライマックスシリーズが受け入れられたのを見ると、傾向自体は変わらないのでは……。

 

 なお、注目3頭の凱旋門賞は、ハープスター6着、ジャスタウェイ8着、ゴールドシップ14着。日本の競馬は確実に進歩していますが、世界の壁はなお厚いようです。    


田所 直喜(たどころ・なおき)

1964年(昭和39年)6月10日生まれ。東京都国分寺市出身、妻と2人暮らしで今も在住。

海城学園は高校の3年間で、1983年(昭和58年)卒業。1年の担任は長島先生。2~3年は文Bコースで河原先生。

東京学芸大学教育学部国語科を卒業と同時に、1989年(平成元年)、(株)日刊競馬新聞社入社。以来、中央競馬担当の編集記者として活動。

現在、編集部中央課課長、採用担当責任者。