Vol. 2 「家畜人ヤプー」出版秘話

 

 前回にひきつづきメディアがらみでとっておきの裏話を書いてほしいという要望なので三島由紀夫が絶賛惜しまなかった「戦後最大の奇書家畜人ヤプー」にまつわる出版秘話をこの際公表する。今から四十数年前サド裁判で一躍名を馳せた澁澤龍彦を責任編集者としてチャーターし、高級エロ雑誌『血と薔薇』を創刊し、三島由紀夫を最高顧問とした。小生はいろんないきさつもあって三島由紀夫とはうまくいかなかったが「家畜人ヤプー」を彼の推挙もあって『血と薔薇』に掲載することにした。しかし『奇譚クラブ』というSM雑誌に掲載されているとはいうものの作者「沼正三」の正体は一切秘匿され「沼正三」の正体をつきとめるのは困難をきわめた。当時マスコミでは彼の正体は三島由紀夫ないしは当時、東京高裁判事だった倉田卓次、あるいは澁澤龍彦ということにされており、それが事態を一層ミステリアスにしたのだ。彼は五年前に亡くなったが、彼の全権代理人は当初から小生であり、その正体を知るのは小生しかいない。現在、幻冬舎アウトロー文庫、及び「劇画家畜人ヤプー=石ノ森章太郎作画」がポット出版から刊行中。

 先述したとおり、澁澤龍彦編集の『血と薔薇』に掲載される予定であったが、いろいろ行き違いがあり、彼が三号で降板したので、四号に掲載した。ちなみに新編集長は知る人ぞ知る平岡正明。当時、彼はあの「犯罪者同盟」のリーダーであり、盟友に画家にして芥川賞受賞者の赤瀬川原平がいる。なお、澁澤責任編集の下で最初編集長に内定していたのは、今や日本を代表する「知の巨人」とされる立花隆である。彼も澁澤とそりが合わず降板。実現していれば立花隆編集長による「家畜人ヤプー」掲載ということなった訳だ。当時、彼はまったく無名であったが、周知のごとく、その後にロッキード裁判、その他、一連の田中角栄スキャンダル追及記事で、一般的にもその名を知られることになった。彼をピックアップした小生としては、当時をふりかえってかえすがえすも残念なことだったと思わざるを得ない。

 初版から四十数年あまりにも、いろいろな「事件」がおきたが紙数が尽きたので、初版出版当時、右翼に襲撃された事件及び、現在の外国版出版状況等に簡単にふれておくことにする。右翼が襲った理由は同書の中で日本民族が白人の性的及び労働奴隷としてあつかわれ、その内容は日本民族を徹底的に侮辱しているというものだった。この時、三島由紀夫が声明文をマスコミに配布し、「作者の最終的意図をまったく理解できない下等な連中の仕業」と強く非難した。三島事件のしばらく前の事である。現在は、国内外で映画アニメ化の企画が進行中。過去においてもかのスタンリー・キューブリック、デヴィット・リンチ、日本では大島渚、若松孝二等が熱心に企画したが、実現には至っていない。外国語版は、現在、仏語版、中国語版(台湾出版社)が出版されて約十五年経過。一説によると中国大陸での地下出版は一千万部を超えているとされる。現在ロシア語版翻訳進行中。英語版はNYの出版社との契約トラブルで今まで進行しなかったが、しばらく前にトラブルが解決したので、近日中に出版される。

 以上小生が初めて公表する「家畜人ヤプー」出版秘話のブリーフィングである。

 


 康芳夫(こう・よしお)

昭和12年、西神田生れ。昭和31年、海城高校卒業。昭和36年、東京大学(教育哲学専攻)卒業。卒業後、「呼び屋」の世界に入る。

主な仕事。ボリショイサーカス、インディ500マイルレース、「オリバー君」招聘。その他、アリー猪木戦コーディネーション。

ネッシー探索隊(総隊長、石原慎太郎前都知事)プロデューサー。