Vol. 9 だまされること
このところずっと気になって探していた本がやっと見つかった。映画監督伊丹万作の「戦争責任の問題」というエッセイだ。何が気になっていたかというと彼は「だまされるということ自体がすでに一つの罪である」というようなことを言っていたと記憶していたからである。わずか数ページの短い文章だが初めて読んだ時のショックを思い出した。
彼は「だますものだけでは戦争は起こらない。だますものとだまされるものとがそろわなければ戦争は起こらない」と指摘して、(戦争の)責任を軍や官にのみ負担させて自分たちはだまされていたと自分たちの罪を反省せず平気でいられる国民ならば、「おそらく今後も何度でもだまされるだろう。いや現在でもすでに別のうそによってだまされはじめているに違いないのである」と書いている。そして「二度とだまされまいとする真剣な自己反省と努力がなければ人間が進歩するわけはない」という。
原文は1946年の「映画春秋」8月号掲載とある。60年以上も前である。はたして我々は彼が言うように二度とだまされないために「脆弱な自分を解剖し、分析し、徹底的に自己を改造する努力を」してきただろうか。憲法改正、消費増税、原発再開、NISA、TPP、アベノミックス、秘密保護法などなど、政治経済社会世の中騒がしい。彼の分析と予言が当たらなければと改めて思う。
小西洋也(こにし・ひろや)
1947(昭和22)年生まれ。東京都出身。
1966(昭和41)年、海城高校卒。
1970(昭和45)年上智大学卒、日経新聞記者。その後テレビ東京、BSジャパンで報道に携わる。
現在は自由業。海原会副会長、海原メディア会会長。