Vol. 10 シリアの春

 シリア情勢が混迷を深めている。40年にわたるアサド父子による統治、やはり「権力は腐敗する」ということかと当初は国際世論も単純に反体制派の動きを応援してみていた。実際多くの報道はアサド政権側の反政府勢力に対する強硬な軍事攻撃を非難するものがほとんどで、アサド大統領の退陣は当然という雰囲気が圧倒的だった。だが毒ガス化学兵器による犠牲者が出たころからその見方に変化が出て来た。毒ガスを使ったのは政府軍であるという確証がなく、逆に反政府側かもしれないという疑念がでて来たからである。真相はわからない。しかし毒ガス事件以後明らかに反政府勢力の残虐行為などを指摘する報道も増えている。米国が軍事介入を思いとどまったのはその意味で良かったのかもしれない。そのまま軍事介入したらアサド政権=悪、反政府運動=善という図式のまま進み真相はますますわからなくなったかもしれないからだ。

 ここで指摘したいのは、アラブの春の背後にある情報戦争だ。特に誰もが簡単に全世界に向けて映像情報を配信できる時代である。ショッキングな映像に目を奪われ、その情報の真偽あるいは中身の検証などがないままに映像だけが独り歩きすることもある。情報そのものがある方向を持った意図的なものである場合もある。どうも中東の歴史をみると外の世界と内部の思惑や力によって動かされることが多いようにみえる。内部というか外部というか今は特にイスラム原理主義過激派組織の動きが絡まっているからややこしい。イラク、エジプト、リビア、チュニジアいずれもいまだ混乱が続いているのもこのためだ。最後は本当にその国の国民が望む世界に向かっているのかどうかという視点で見てゆくしかない。


小西洋也(こにし・ひろや)

1947(昭和22)年生まれ。東京都出身。

1966(昭和41)年、海城高校卒。

1970(昭和45)年上智大学卒、日経新聞記者。その後テレビ東京、BSジャパンで報道に携わる。

現在は自由業。海原会副会長、海原メディア会会長。