Vol.24 イスラム国
ブランド化の要諦はネーミングにある。最近の最大の成功例は「イスラム国」だろう。イラクやシリアなどの反体制イスラム過激組織が自らをイスラム国と呼んだことで明らかに対外的、内部的なイメージが大きく変わった。これまでの限定された地域の単なるテロ集団というイメージから既存の国家の領土的制約を超えて拡張するイスラム世界のイメージ作りに成功しているように見える。その結果反テロ対策として特に米国などが行ってきたこれまでのような単純に特定のテロ集団を武力で潰すことで問題を封じ込めるという戦術は通用しなくなったように思える。逆に国境を越えて拡張するイメージは新しい理想世界としてこれまでテロや武力行使さらにはイスラムに関心のなかった人をも引き付けている。
イスラム国の体制、組織がどのようになっているのかは分からない。しかし戦闘の面だけでなくそのネーミングや対外宣伝のやり方、資金調達力や“国民”を増やすリクルート力などをみると、組織的に動いているように見えるし、それらを戦略的に考える相当の頭脳集団が存在するのではないかと想像する。問題はこの先どこに、どのように向かって進んでゆくのかということである。キーはやはりイスラムである。しかも「国」の統治者として預言者モハメッドの後継者であり神の代理人としてのカリフの復活を宣言しているということに注目すべきだと思う。このことは最終的に目指す世界は宗教と政治の両方を統治するリーダーのもとにある世界の実現である。
実はこのような世界を先取りして垣間見せたのがイランだった。35年前のイラン革命はイスラムの宗教指導者が政治社会の世界でも指導的な役割を果たす国家をつくるものであった。これはイランのイスラム教少数派(シーア派)を主導してきたホメイニ師のイスラム解釈に基づく独自世界の実現だが、もともとイスラム教はマホメッドが預言者として宗教的にも政治的社会的にも集団を主導していた時代の世界を理想としている。その意味ではイランの革命もイスラム的には否定できない面があると言えそうなのだが、イスラム教主流派・多数派(スンニー派)はイランのイスラムは異端であると排撃、宗教と政治を分けて国家を統治している周辺イスラム諸国も自らの国家体制を揺るがす危険思想として敵対することになった。とりわけイスラムの盟主を自認するサウジアラビアなどが現在イスラム国を名乗ることにまでなった反イランのイスラム過激勢力を陰で支援して来たといういきさつがある。
だが、いま皮肉にもその支援してきたイスラム過激勢力がその「マホメッドの世界」の実現を錦の御旗に掲げ始めたのである。しかもイスラム主流派の組織の宣言である。言いかえればもはやイランを異端者扱いしてきたような言い逃れができなくなったということである。イラン革命の影響を避けるためにと育てた防衛部隊が実はモンスターだったということである。宗教と政治を分離した一国主義の体制をとるイスラム国家全ての足元をも危うくする存在になったのである。その意味では今後の注目点はイラク、シリアの動向というよりもメッカを抱えるイスラムの盟主サウジアラビアがどうなるかということになる。サウジが揺れ出したとしたらその時世界がどうなるか想像もつかない。
小西洋也(こにし・ひろや)
1947(昭和22)年生まれ。東京都出身。
1966(昭和41)年、海城高校卒。
1970(昭和45)年上智大学卒、日経新聞記者。その後テレビ東京、BSジャパンで報道に携わる。
現在は自由業。海原会副会長、海原メディア会会長。