Vol22. メディアの責任
慰安婦問題における朝日新聞バッシングが過熱している。韓国で従軍慰安婦を強制連行したという30年前の記事を朝日が突然取り消すと表明したことが火に油を注いだ格好だ。「20年も前から否定されている記事を今更なんだ」から始まって「朝日の報道が日韓関係を破壊し、日本が世界から不当な批判を受ける原因を作った」とか「これはメディア犯罪だ」「国会に招致して追及するべき」と言いたい放題である。もちろん朝日の報道機関としての反省とけじめはそれとして指摘されるべきだが、記事取り消しによって現在の慰安婦問題のすべての責任が朝日にあるような批判や言動は悪乗りとしか思えない。
自らの報道内容に全責任を持っている報道機関としては間違いがあれば自らが原因や問題点を徹底的に検証し同じような過ちを繰り返さないための対策なり対応策を講ずるのは当然だ。その意味で朝日は「誤報」そのものとその後の報道とその影響についてジャーナリズムの観点から自らが徹底検証し、問題の所在を明らかにする必要があるだろう。その上で報道機関としての役割や責任などを明確にするべきだと思う。慰安婦問題特集の中で唐突に問題の記事を事実の裏付けがはっきりしないので取り消すとしたやり方や、いま論争となっている慰安婦問題の本質からみると問題とされる記事自体がもはやあまり重要でないような書き方をしていたのは如何にも姑息だ。かつて「新聞と戦争」で戦時における自らの報道の功罪を検証した朝日である。慰安婦問題でもやって欲しい。
さて問題は、「現在の日韓関係の悪化の原因を作ったのだから責任者は国会で追及すべきだ」、「これはメディアによる犯罪だ」といったもう一つの朝日責任論である。これはいくら朝日が憎いといっても筋違いというものだろう。朝日の報道が多大な影響を与えたとしても外交の責任は国家・政府にある。朝日の「誤報」が日本の名誉棄損を招いたのではなく時の歴代の政府、外務省の外交政策が今の事態を招いたのである。もし日本の外交が朝日の「誤報」をもとに行われてきたとすればそれはそれで余りにもお粗末なことだ。逆に全面否定できることであってもそうしなかったというのであればそれは国家としての外交判断か別の判断があったのだろうと考える。いま韓国が慰安婦問題を外交問題にしているからといって朝日新聞にその責任を問うよりは、それだけ事を大きくしてしまった国・政府の外交政策の稚拙さ脆弱性を問うべきではないのだろうか。
それにしても国会招致などということを同業他社あたりからも出ているのには驚く。国会は朝までテレビではない。機関として主義主張の違いがあるとしてもジャーナリズムや報道の自由といった本質の部分でメディアが共闘体制をとれないことではこれからの日本の報道にあまり希望はもてそうにない。
小西洋也(こにし・ひろや)
1947(昭和22)年生まれ。東京都出身。
1966(昭和41)年、海城高校卒。
1970(昭和45)年上智大学卒、日経新聞記者。その後テレビ東京、BSジャパンで報道に携わる。
現在は自由業。海原会副会長、海原メディア会会長。