Vol 20.  30年

 6月に約2週間イランを旅した。およそ30年ぶりの訪問である。予想以上に首都テヘランが近代都市へと変貌していることに驚いた。北は背後のエルボルス山脈の中腹まで高層マンションが立ち並びさらに上へと開発が続いている。首都から1時間余り離れた南西部に新しい空港が作られ、そのアクセス道路にそって新興住宅がつづく。テヘランは北へ南へ大きく拡張している。都心に入ってみれば高速道路が縦横に張り巡らされ、その脇には緑豊かな公園が整備されスプリンクラーが散水している。地下鉄も開通した。けたたましい警笛音があふれ、雑然としながらものどかな雰囲気を漂わせていたかつてのテヘランの姿はもはやない。

 しかもテヘランを見る限り確実に生活が豊かになっているように見える。なんだか街全体が高級化しているのだ。真新しいベンツやBMW、レクサスが走り大衆車もプジョー(合弁国産車)だ。西側の高級店のようなレストランや商店も増えている。さらにびっくりしたのは生活様式も近代化?して、地下にはプールやトレーニングルームもあるマンションが当たり前になっているという。公園ではジョギングに汗をかく姿も見られる。さらに驚いたことに最近はペットブームだという。

 シラーズやイスファハンといった地方都市でも、町は活気にあふれ、新興住宅が郊外へと広がりあちこちで大型マンション風の集合住宅の建設が進んでいた。都市を結ぶ幹線道路は片側3車線の立派なものが整備され、途中土産ものやレストランがあるサービスステーションもできていたのには驚いた。家族ずれのドライブ客も多いようで、結構なにぎわいを見せていた。また建設資材や生活物資を積んだ大型トラックがひっきりなしに走行している。人や物の移動は予想以上に活発なようだ。

 革命そして米国との断交、イラクとの戦争、継続的な内政の混乱、外交的な孤立、核をめぐる経済制裁。伝えられるニュースから描いていたイランのイメージは、とても開発や経済発展など望めないのではないかというものだった。さらにイスラム化が一段と進み国全体が暗く停滞しているのではというものだった。それがまったく違っていた。いい意味で大きく裏切られた。でもイランの友人はいう。「30年は十分長いです。でも30年でこれだけかといま多くの人が思っている」と。さて革命で西でも東でもないイスラム国家の建設を目指すとしてきたイランの現在の姿をどう見たらいいのだろうか。次回改めて検討してみたい。


小西洋也(こにし・ひろや)

1947(昭和22)年生まれ。東京都出身。

1966(昭和41)年、海城高校卒。

1970(昭和45)年上智大学卒、日経新聞記者。その後テレビ東京、BSジャパンで報道に携わる。

現在は自由業。海原会副会長、海原メディア会会長。