Vol.16 明日ママ

 児童養護施設を舞台とした日本テレビのドラマが児童養護施設団体から人権侵害や差別を助長するとして番組中止などを求める強い抗議を受けている問題の波紋が広がっている。日本テレビは番組を最後まで見てもらえば誤解は解けるとして番組中止はないと言明しているものの、子供たちへ与える影響などへの配慮が十分でなかったことを謝罪し、一部内容の変更なども検討していることを関係団体に伝えたという。その一方で厚労省が影響調査に乗り出す意向を示すなどまだまだ予断を許さない状況だ。

 この騒動少々今までと違うのは視聴者は冷静なのに関係団体が強く抗議しているという図式だ。ネットなどの視聴者の声を拾ってみると「これまで知らなかった世界を知った」とか「養護施設やその児童たちの問題を考えるきっかけになった」と好意的な評価が多くみられる。施設団体が指摘する施設児童へ与える影響を心配する声もあるが、施設職員が差別や暴力をふるっているとの誤解を与えるとの指摘に強い関心を示しているようにはみえない。

 となると団体側の過剰反応なのだろうか。養護施設や養護児童の問題に詳しい人に聞いたところ「施設内での暴力事件や差別、虐待などの実態はドラマ以上に深刻でかつて施設内のそのような問題を改善するべく全国的に協議をする動きがあったが立ち消えになったことがあったという。「理由はわからないが問題が公になることを嫌った何らかの力があったようだ

 と語っている。今回の養護施設団体からの抗議がその延長線上のものかどうか分からない。しかしこのドラマが虎か猫かなんらかの尾を踏んでしまったのは間違いない。

 社会的時代性を持ったテーマを世に問う時、たとえドラマだとしても現実からの批判に耐えうる裏付けや覚悟、信念が必要だ。日テレにその覚悟があったのかどうかが問われるが、その一方で提供スポンサーが騒動のとばっちりを恐れて早々と番組内のCM放送をやめるという事態にまでなっていることが気になる。業界関係者の間ではこのような抗議やクレームで番組の内容変更や放送中止ということになれば、今後テレビメディアにおける自由な表現というものができなくなるだろうと危惧する声が高まっている。この問題処理の行方は今後のテレビメディア全体の行方をも左右しかねない。


小西洋也(こにし・ひろや)

1947(昭和22)年生まれ。東京都出身。

1966(昭和41)年、海城高校卒。

1970(昭和45)年上智大学卒、日経新聞記者。その後テレビ東京、BSジャパンで報道に携わる。

現在は自由業。海原会副会長、海原メディア会会長。