Vol.13 秘密は秘密
ねじれ解消、決められる政治とかいう大合唱に乗せられたことでいずれこんなことになるだろうとは危惧していたが、どうにもやりきれない。秘密指定の曖昧さ、恣意的な拡大解釈を許す危険性、報道の自由、思想信条の自由や基本的人権を侵害する恐れも極めて高い特定秘密保護法である。国民の反対の声が日増しに高まり、抗議行動も広がっているという最中に審議を打ち切り強行的に可決成立させたのはどう考えても許せるものではない。しかも成立を急いだのは今国会を逃すと消費税引き上げなどに伴う経済情勢の変動や政権支持率の変化などから成立が読めなくなるからだという単純な理由からだとまことしやかに言われている。はじめから国民不在で、できるだけ内容は秘密にしたまま成立させたいという狙いが見え見えである。可決成立した後になってから政府は盛んに「説明が十分でなかったので施行までの間に国民の理解を得るよう努力する」とか、「懸念や不安を払しょくするための二重三重のチェック体制を整備する」ので安心しろといった発言を繰り返しているのは自らそれを白状しているようなものだ。
そもそもこの法案は外国と情報を共有するためには諸外国並みの国家機密保護の法整備が必要なのだと言う説明から始まったように記憶する。本当に日本がスパイ天国なのか良くわからないが機密管理の強化も必要なのかというのが一般的な受け止めだったように思う。それが出て来みると「今世紀、民主国家で検討されたもので最悪レベル」の国民の知る権利を制約する可能性のある怪しい法案であったのだ。すでに二重三重の嘘をついているのである。しかもこの裏ではこの法とリンクする国家安全保障戦略の政策指針に「愛国心」を育むことを明記することで着々と動き出しているという。国益、国防、安全保障といった掛け声の下で秘密が増え一方で国民の思想教育が進められるというのは妄想だろうか。
それにしても政治の世界はどうしてこうも単純に数の論理だけで動く世界となったのだろう。与党議員だからといって黙って賛成票を投ずる神経はどこからくるのか。全員が本心からこの法案を支持しているとしたらそれはさらに恐ろしいことだが、ブラック企業の社員のように文句も言えずただ上の指示通りに動かされているとしたら議員も落ちたものだ。顔の見えない議員ばかりが多数を占める国会の暴走を止める手立てはないのだろうか。
小西洋也(こにし・ひろや)
1947(昭和22)年生まれ。東京都出身。
1966(昭和41)年、海城高校卒。
1970(昭和45)年上智大学卒、日経新聞記者。その後テレビ東京、BSジャパンで報道に携わる。
現在は自由業。海原会副会長、海原メディア会会長。