Vol.12 秘密保護法
どう考えても怪しげな法案である。どうみても国家機密の指定、解釈すべてにわたって時の政権が恣意的に自らに有利なように運用できような内容である。成立してしまえばまさに歯止めが利かなくなる危険性が極めて大きなものだと思う。だが現実は着々と法案成立に向けてカウントダウンが始まっている。もはや止めることができないのだろうか。最低限必要だと思われる指定機密の限定や公開期限の設定、さらに機密の正当性や評価などを求める声にも一切耳を傾けない安倍政権がここまでこの法案の成立にこだわるのはなぜなのだろうか。それだけ隠したい何かがあるのだろうか。何か別の目的があるのだろうか。
澤地久枝さんが書いた「密約」という本がある。ご存知のように沖縄返還を巡って日米間に密約があったと当時の毎日新聞記者西山太吉さんがすっぱ抜いた外務省秘密漏洩事件の話だ。本はいかに政権側が真相を暴く側の「知る権利」や「表現の自由」などの論議から話をずらし、「女性外務省職員との関係」というスキャンダルに落とし込めて真相を隠したかを克明に描いている。結局西山氏は最高裁で有罪が確定し、澤地さんは「国家秘密を取材した記者が罪に問われる法律があるなら、国会と主権者に対して欺瞞と背任を行った政治家を告発する法律があってもよさそうなものである」と書いている。
その後米国の情報公開でほぼ真相が明らかになっても、政権が代わって民主党政権になっても「密約」は無かったという日本国の姿勢は変わっていない。国家とはそういうものである。そんな国家に西山さん一人挑み闘い続けた。これまでのご苦労を思うと頭が下がるばかりだ。その西山氏が参議院で参考人として呼ばれ「外交交渉のプロセスをいちいち公開する必要はないが、結論は全部国民に正確に伝達しなければ民主主義は崩壊する」と訴えたと新聞が報じている。
小西洋也(こにし・ひろや)
1947(昭和22)年生まれ。東京都出身。
1966(昭和41)年、海城高校卒。
1970(昭和45)年上智大学卒、日経新聞記者。その後テレビ東京、BSジャパンで報道に携わる。
現在は自由業。海原会副会長、海原メディア会会長。