Vol. 5 例え話 

 新任の内閣法制局長が朝日新聞とのインタビューで集団的自衛権は「隣の家に強盗が入って危ない時に、助けに行く」ようなものだという主旨の例え話をしていたのを読んで、何か引っかかっていたら、その後読者の声欄に「戦争を強盗に例えるのはそもそも適切ではない」と稚拙な論法を批判する投書があった。その通りである、確かに適切な例えではない。だが待てよ、問題は例えの良し悪しではなくて、このような例え話に耳目が奪われることにあるのかもしれない。それによって話が本質論議からずれる所にあるのではないか。

思い出せば小泉政権時代は「人生いろいろ」から始まって最後まで国会の場でも私的な場でも詭弁、珍答弁に終始した。お笑いブームのせいだろうか芸人の話芸のように機転の利いた話ができるのが頭の回転の良い人だとみられ、当時自分も含め多くの人が小泉首相の国会答弁を漫談を聞くかのように愉しんでいたのである。しかしその中で国の根幹にかかわるようなイラクへの自衛隊の派遣などが実行され既定事実化していった。

 さて現在状況は変わったのだろうか。ワイマール憲法に関する麻生氏の発言とその後の居直り発言や橋下氏の慰安婦問題に関するやりとり弁明などをみるとあまり変わっているようには思えない。最近影を潜めたが憲法改正を96条の変更から入ろうというような姑息な手法も根は同じと言えるだろう。例え話や宴席での雑談はわかりやすく面白い。だがその表面だけに目を奪われないようにしたいものだ。物事単純化したり、分かり易くした時にこそ喋り手の本音が現れるのだから。


 小西洋也(こにし・ひろや)

1947(昭和22)年生まれ。東京都出身。

1966(昭和41)年、海城高校卒。

1970(昭和45)年上智大学卒、日経新聞記者。その後テレビ東京、BSジャパンで報道に携わる。

現在は自由業。海原会副会長、海原メディア会会長。