この対談は妙壽寺本堂落慶30周年記念インタビューとして同寺の広報誌「寺楽寿(てらす)」16号、17号に掲載されたものです。
転載許可を頂きました。話の展開により一部見出しと構成を変更しておりますが全文掲載させていただきました。
なお対談相手は三吉廣明氏(妙壽寺住職)です。
泊 懋氏(元東映アニメーション会長)が語る映画の時代とテレビの時代
【パート6】世界に誇る日本のアニメ
三吉 東映アニメーションギャラリーの見学は本当に面白かったです。
泊 ありがとうございます。
三吉 実は今をときめく宮崎駿さんも東映アニメ(当時は東映動画)でアニメーターとして修業されていたそうですね。だから片方は任侠路線で、もう片方は子供向けのアニメーションを製作していたということですか。
泊 ほんとそうですね。
三吉 創立何年になるんですか。
泊 1956年(昭和31年)に創立ですからね。
三吉 私は1957年生まれなので私より1つ年上ということですね。今アニメブームじゃないですか界中で、何しろクールジャパンだから。ともかく今は海外もハリウッドも、日本のアニメの原作を欲しいぐらいな時代になってきているので、これkらとてもそういう点では、日本の片や職人芸のようなところと、創造力のようなところを一番タッチしている部分じゃないかと思いますが。
泊 宮崎さんは別として、日本のアニメはマンガの力に負うところが大きいですね。「ドラゴンボール」「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」まで多種多様なキャラクターを漫画家たちが生みだす、鳥獣戯画以来の伝統でしょうか。自由な表現、自由な発想ができる日本という国がいい国なんだと思います。一党独裁の国からは生まれてこないですよ。それと観客、視聴者が優れているんだと思います。コンテンツは観客が育てるんですね。
三吉 こうしてみると東映さんは時代に合わせてバラエティに富んだ作品を次々と製作して楽しませてくれてますね。
泊 その通りです。東映には映画とアニメ、二つの文化があるんです。東宝には宝塚、松竹には歌舞伎がありますね。映画会社で生き残った会社はもう一つの文化事業を持っていたからではないかと思いますね。大川社長時代によくぞアニメ会社を作ってくれたと感服しています。
三吉 今日は泊さんといろいろなお話を伺うということで大変楽しみにしていました。特に時代劇のお話ができるのは母堂を思いだします。私は住職としてお寺を預かって33年で、妙壽寺の歴史は300年、その中の33年ということです。江戸の初期、寛永8年(1631年)の草創ですから、まさに時代劇の人たちが活躍していた時代に私どもの歴代の住職も当時のお檀家がまた支えて頂いて、妙壽寺があって、それで現在のこの寺につながっているということを思うわけです。
ですから今、ご法話をするときに、若い方たちがいるとすれば「あなたたちは、今ここに突然いるんじゃなくて、あなたたちのお父さんお母さんで2人ですね、そのまた祖父母で4人です。それにまた8人のひいおじいちゃん、ひいおばあちゃんがいます。2と4を足すと6で、6と8を足すと14ですよねと。これをずーっと足してゆくと10代さかのぼっている血のつながっているお父さん、お母さんは何人いるとおもいますか、1、024人いんですよ」と。
泊 そうねるですか。さかのぼって行くと不思議な気持ちになりますね。
三吉 10代ということは、仮に25年としますと250年ですね。25年というのはまさに江戸時代なんです。その江戸時代に我々とおなじような人生を送っている人たちがいて、その人たちが精いっぱい生きて、その姿を我々がみる。ということは何かというと、時代劇なんです。時代劇を我々がみてそれは先ほどの時代考証ではないですが、いろいろ違うこともあるかもしれないけれども、あのように皆生きていたんだな、ということを我々が知る手だてとしては時代劇なんです。
そういう中でいまの我々があるということを、もっと私は若い人たちに分かってもらいたいと最近とみに思います。ところが残念なことに時代劇が減ってきているという現実があります。
泊 確かにそうなんです。私の父は明治の生まれ、祖父は慶応ですから三代前は江戸時代。」時代劇の世界にいたわけで、もっと勉強しろ!と先祖から叱られそうですね。
同じようにこれからの未来のことも大事ですね。アニメも先人たちの苦労に感謝しながらさらに世界に羽ばたかなければいけませんね。東映アニメーションの企業理念は世界の子供たちに夢を贈ることにあります。
子供たちは人生のゴールデンタイムを生きている。戦乱の中にいる子供も、貧困の中にいうる子供たちも、その人生の中で一番良い時期を生きている。その子供たちに良い面白いアニメを見せてあげたい。そう思いながらなかなかそうはいかないんですが、そう念じながらやってきました。改めて思い出させていただきました。
三吉 本日は長時間にわたりまして素晴らしいお話をお聞かせ頂きました。ありがとうございました。これからも益々お元気で、ご意見番として後進の成長にお力添えを頂ければと思います。
泊 こんなに東映の映画にお詳しいとは考えもしませんでした。今日はこの能楽堂という空間で私の方こそいいお話を聞かせて頂きました。ありがとうございます。実を言えば私どもの御先祖は長崎の五島で代々代官を務めていたのですよ。その末裔の私は時代劇のなかに何かといえば悪代官を登場させて「そちもワルよのう」などと言わせて、小判の入った菓子折を受け取らせたりしていましたから。(笑)罰を受けるんじゃないかと思うのですね。そろそろラストシーンを迎えますので、(笑)その時はどうかうまく引導を渡してください。(了)
平成26年1月31日 代々木能舞台